#6 キャットフードの乱杯
金色のトウモロコシ
約束の大地を踏む度に、けげんなポールはくそでかい意思表示をしなければならなかった。
つまり、ニワトリより大きな声で鳴き、馬よりも馬顔になって熱弁を午後に奮うのだ。鉛筆を削るより大変であることはいうまでもない。
野蛮なウルフはそんな主人の無事を祈って、千羽鶴を折ってプレゼントした。
「気持ちはありがたいがな、ウルフ、鶴の頭がないのは縁起が悪いぞ」
「あらら、こりゃあ、いけませんな。きっと狼に食われたのでしょう」ウルフはのんきに弁解した。
「千羽の鶴の頭を食べるとは、大食い狼だ」
ポールはいちいち弁解を気にしなかった。いまとなっては砦の女王のこともその他のこともどうでもいいのだ。やっと手に入れた束縛感を手放したくはない。天敵は自由民主党なり。
日暮れに向かって指ぱっちんを繰り返す度、ポールは5年前に飲んだ風邪薬の苦みを思い出すのだった。そうだ、あの薬はとても苦かった。
ポールが吐きそうになっていると、野蛮なウルフの野蛮な声が後ろから聞こえてきた。
「旦那いいもん、みっけましたぜ」
ウルフが抱えていたのは、薄汚れた箱だった。
「どうしたんだ、その箱は」
「へい、通りすがりの泥棒にもらったんでさあ」
「世の中にはいい泥棒がいたもんだ」ポールはけげんな顔をして、汚い箱を開けてみた。すると、中から黄金の光が現れた。
これはまさしく、金色のトウモロコシだ。
ポールの眼球はみるみる前にでてきて、びっくり人間の顔になった。
「おい、ウルフ、その泥棒はどんなやつだった?」
「へい、これといって特徴のねえ泥棒でしたな。あっ、そういえば、奥二重のまぶたをした泥棒でした」
ミス・デス・カス
砦の女王に危機が迫っていた。サブスタンスの群がついに女王の歯並びが悪いことを突き止めたのだ。
こうなってはピエロがライオンの着ぐるみを着て、火の中に飛びこんでも手遅れだ。
サブスタンスの群が持ってきた黒アリのせいで砦の地面は黒いカーペットのようになっていた。革命は歯並びと共に、彼らはそういいながら歯ブラシを持って進軍した。
「もう私はお終いじゃ、あのマカダミアンたちに娘をさらわれなければ、こうはならなかった」
女王はパセリを1枚1枚顔に貼り、最後を迎える準備をしていた。すぐ横にいたピエロは我慢できずに、女王の目前にずかずかと押し入って、パセリの付いた女王の顔を思いっきりビンタした。
「女王、あきらめてはいけません。あなたは気高き女王なのです。黒アリにやられる運命ではない。砦から飛びだし、世界をとるのです。いまがそのチャンスです」
「う、うう、そうじゃな、道化よ。その通りだ」
女王の目から緑色の涙がこぼれた。部屋のドアが力強く叩かれる。
ピエロは腰に刺さったキャンディ銃を構えて、赤い鼻をふんと鳴らした。
キャットフードの乱杯
話してみると、魔女はいいやつだった。
キツツキの谷に住む前は、緑が丘で交通安全のキャンペーンガールをしていたらしい。交通違反を取り締まるのは彼女にとって天職だったが、義理の母との関係がうまくいかず、建設業の夫と離婚してしまう。その後も、安給料のせいか、体調が優れず、療養するために、このキツツキの谷に住みはじめたのだ。
マカダミアンとナッツとケットは、魔女の家でキャットフードをごちそうになっていた。この家は他の魔女たちと共同で使っており、いわば、シェアハウスというものらしい。
ナッツは興味深そうに、家をきょろきょろした。
「あまり、魔女らしいものは置いていませんね、ほうきとか杖とか、生首とか」
「ええ、そうね」魔女は紫色のくちびるをぱくぱく動かした。「刺激になるようなものは置いていないの、あくまでここは静かに暮らしたい魔女のための家ですから」
「家賃はどれくらいですか?」ケットはそういって、はっとする。失礼なことを聞いてしまった。
マカダミアンは天性の機転で魔女の気をそらす話をした。
「それにしても、こんなにおいしいキャットフード、食べたことありませんでした。ぼくは犬が好きでしたから」
「ありがとう。ドックフードも用意しましょうか?」
「いえ、お気遣いなく、それはおみあげ用にとっておきます」
マカダミアンと魔女がご丁寧に乱杯を交わしている隙に、ナッツは魔女の家を調べることにした。ここにはお宝が眠っていそうだ。
錆びたコインでもキャンペーンガール時代の集合写真でもいい、運勢が上がるなにかを見つければ、一生もんだ。
魔性の女が努力したとき、整形したネズミたちはゴスペルを合唱する。称え、祈れ、澄んだ女王のお帰りだ。