#8 ネムタイの森
ネムタイの森
闇に紛れし千手の大砲。赤焼けのビューティフルは世間様に無限のお人好しを与え、なおも進軍を続ける。
ここはネムタイの森。いいかげんな領主たちが自信を持って略奪を企んでもこの森に入ることはできないし、涙の入った酒瓶を投げることもできない。
案外、安全の道を進んできたネムタイの森は、どこまでも澄み切っていて、宿屋の宿代なんて鼻にもかけないような連中が日夜うろついて、その見事な見識美を披露している。
ネムタイの森では古本のページをめくるくらいの風しか吹かないし、精霊たちの歌う森の賛歌は「眠り」という名の輝きを保障していた。
旅行ガイドには引きつった笑顔のお姉さんがカラフルに情報を提供している。黄色いビッグなビックリマークやしつこいほどのグットなジェスチャーは見るものを午後のハエのようにはたき落していた。
森にある湖に波紋が現れると、カエルたちはいぶかしげに空を見上げ、日曜参観の身なりを見直す準備をするのだった。その様子を誇らしげに見下ろす、元小鳥のビビタスはご機嫌に歌を歌った。
ビビタスの歌声は森に入った茶色のコートの男の耳に届いた。男は不愛想に伸ばした髪から目を覗かせたが、この森の美しさに心を奪われることはなかった。
自由なき論争
ジャンク・ビューは汚いものでも見るようにピエロを見た。
「スクリーンに映しだされたものではないな、お前は現実にこうして私の目の前にいて、自分の力のなさを嘆いている。ああ、私がいま考えているのは、お前の使い道よ、テクニック・アハハハの標準を身に着けたお前ならさぞみなも喜ぶであろう」
ピエロは変色した赤い鼻をどうにかぶら下げて、必死に涙を堪えていた。
「女王を守れなかったことを私は悔やんでいます。自前のキャンディ銃が相手においしさを与える前に、女王の首を取られたなんて、ピエロの風上にも置けない自分です」
「そう自分を責めることはない。このジャンク・ビューがお前にチャンスをやろう。それは鍛えるチャンスであり、見事なまでの六式おばさんを修正するチャンスでもある、復讐やひっそり暮らし、なんでもいい、その力を限界まで披露できる幸せを与えてやろうではないか」
ジャンク・ビューは哀れなピエロに食料とお金を持たせた。これはジャンク・ビューの手足となって、世界を旅する権利となった。
密かに黙する当事者は、陽気な機会をぜんぶ捨て、健康になり、野蛮になり、川の水を飲んで、酒場の友人に愉快な時間を提供する。女王への償い、自分への投資、時代をめぐる覚悟が、そのピエロにはあるか。
星くずの宝箱
マカダミアンたちとはぐれてしまったナッツは星空のコンパスを頼りに、ひたすら魔女の家の地下を進行中であった。
地下墓所のような静けさは微塵もなく、コウモリたちはロウソクが奏でる不思議なメロディーに合わせて翼を動かしダンスをしていた。
レンガの中にはレンガしかなく、それは2つ3つ4つと重なり、ナッツの不安をバターケーキ状にクッキングした。
ひとりでいることのおまじないは大抵の場合効果がなく、わざと自分のチャックを下ろして中身をだしてしまうことになりかねない。
ナッツは村の老人たちへの暴言をもう一度思い返して、そのときの暴力的な自信を取り戻そうとしていた。
ぶるぶると震えながら歩くナッツに、ロウソクたちは小さな炎で拍手し、コウモリたちは赤い舌をだして笑った。
厄介なことなんてひとつもないと思っていたけど、それは間違いかもしれない。おれの冒険はおれの自信で進んでいくのだけどな、そりゃあ、いくつかの設定の違いこそあれど、こんな暗い地下を進むなんて聞いてないぜ。宿題をし忘れた罰ならもっと明るいところでやってほしいもんだ。
ナッツは依然、ぶつぶつと文句をいいながら、闇の中を進んでいくのだった。
帰りは来ない、道行くは久しぶりのアンダー。お忘れの方はどうぞ、机の下に避難してください。
危険を顧みない賢者は、自分のことをハンカチで隠す。いや、本当に隠しているのはその裏の苦笑いかもしれない。