雨が降ったときに、パラソルの中でするような話をひとつや2つ。それは喜劇か、悲劇か、またはビジネスか。

#12 しんじちゅ

2018/10/17
 
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プロジェクト・がいこつ

がんばれやの里のがいこつたちは箱舟を作ることになった。

彼らにとっては初の試みで、崖の上の不安と机上の興奮が骨の奥まで染み渡った。

がいこつ界はこれまでデフレとインフレを繰り返しながら、低迷の一途を辿っていた。骨だけになった彼らは骨以上骨以下の精神で必死に躍動を続けていたし、それに文句をいう人間はごくわずかだった。

口にはしないが、彼らの心にはいまのままで本当にいいのかという焦りがぎしぎしと音を立てて迫っている、と、あるがいこつは涙ながらに話した。

ナッツはいつもは頼りがいのないがいこつたちが、こつこつと働き、箱舟を作っているのを見届けることにした。この里に骨を埋める覚悟がない代わりに、がいこつたちへの、自分なりの礼儀のつもりだった。

プロジェクト・がいこつのそれぞれの柱は人気のがいこつたちが担ったが、その中に新人のがいこつたちの姿もあった。このプロジェクトの目標には、まだがいこつになったばかりの新人を育成するという教育的なものもあった。

いままで学校を作ることを反対していたがいこつたちもこの教育方針には賛成だった。

これもプロジェクトへの高い信頼の結果といえる。多くのがいこつたちは箱舟作りに意欲的で、設計図がめちゃくちゃだったり骨同士の喧嘩が起こっても陰湿なムードにはならなかった。

これは歴史を変える。ナッツはカクテルを飲みながらそう思った。

けたたたたましい

雨の匂いが好きだ。だが、きょうの雨は雨の匂いがしない。偽物の雨だ。最近、偽物が流行っているから気をつけないといけない。

ぼくは窓に貼ってあったガムテープを剥がして、外の空気を吸った。近所の野球少年が空けたであろう窓の穴からは工場内とはまるで違うすっきりした空気を吸うことができた。

サブスタンスの群と名乗る連中が工場に侵入してから、ぼくは物置部屋に移動することにした。

連中は黒いマスクを着けて、工場内を嗅ぐように調べ、作業員を一か所に集めた。ぼくの楽天家のママももちろん捕まっている。事態が悪いほうへ進んでいるのは溶けかけたチョコレートを見るよりも明らかだった。

物置部屋にはぼくと何箱かの段ボール箱しかない。お豆の光はなかったけど、窓から差しこむ灰色の光があったので暗くはなかった。

ぼくはいったいなに者なのだろう。工場の作業員でもないし、サブスタンスの群の仲間でもない。チーズにかぶりつくねずみでもないし、野球のボールでもない。

握り拳を作って、前方にパンチを何発か放った。ぼくは楽天家のママと絶交をしなくちゃいけないんだ。目的を忘れてはいけない。そうだ。3時のおやつを忘れてもいい、夜更かしを忘れてもいい、でも、自分で決めた目的を忘れてはいけない。

リュックサックを背負い直し、立ち上がる。ぼくのことは後世に語り継がれるだろう。絵本の中の王子さまはみんなぼくの顔になる。世界中のお札に顔が印刷され、金持ちはぼくの顔を集めて笑いをこぼす。

もう二度と期待させないくらい、徹底的に活躍してやろう。

しんじちゅ

見っけなプリティはストローをくるくる回して、氷とグラスのハーモニーを左耳で聞いていた。右耳にはうるさいハエが飛んでいて、異常なほど迷惑だった。

ハエを手で払えるならとっくにそうしていた。しかし、そのハエの力は強く、自分が抵抗すると無理矢理にことを起こすかもしれない。そのときは大声をだして、あの世に送ってやる。

ハエは自分のことを賢く、魅力的だと思っている。たしかに、身なりは整っているし、みんなが好きなアイテムも持っている。自信を首から下げて当然だろう。だが、私にとってはその自信が目障りに感じてならないのだ。

そのハエが一通り飛び終わると、後ろに構えていた次のハエが前にでてくる。ちゃんと一列に並んで、順番を守って、ハエとしての立ち振る舞いを心得ている。そして、またうるさく飛び回る。

見っけなプリティは窓の外に目をやった。外を見るのはきょうで14回目だった。だがその14回目は特別なものになった。

道を歩くすらっと長い足。その人は町のみんなから「無視」されていた。すれ違う人もポスターもプリティボタンも、だれもその人のことを気にしていない。そうだ、この町でその人を見ているのは私だけなんだ。でも、その人は私のことを見ていない。これっぽっちも。

熱いものが下から込み上げてくる。私は悔しくなって、急いで走りだした。後ろから何匹ものハエが追いかけてくるのがわかったけど、いまの私に追いつけるはずがない。私は、この町のだれよりも速く走れる。

店のドアにぶつかり、地面を押し返すように私は走った。人ゴミの中に、あの人の背中が見える。追いつけ。感じたことのない感情、全身からレモンが噴きだしそう。

人々が口を開けて、プリティボタンを押している。さあ、好きなだけ押せばいい、私はそんなものなんかに負けない。私は走る。ポスターを裏返し、店の窓を震わせる。回れ、飛べ、走れ!

道の真ん中に光陰が現れる。私は光の中を走る一本の矢。当たれ、あの人の背中へ。貫け。

「はあ、はあ、はあ」私は乱れた髪を直して、その人に声をかける。

「あの……」

その人は振り返る。私の矢は確かに刺さった。私のピンク色の臓器にぐさりと刺さった。

「はい、これ」その人は私になにかを手渡した。私は、そのときはじめてプリティボタンを押したいと思った。

その人の、とってもプリティな奥二重の目に。

 

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