話せるドラクエ
ドラゴンクエストは「会話」のゲーム。
冒険は会話によってはじまり、会話によって終わる。
町の人に話しかけ世界を知る、仲間に話しかけて仲間を知る、王様に話しかけて名誉を知る、魔王に話しかけて戦う意味を知る。
そんなドラクエが「話せる」ドラクエになったらもっと面白いことになるんじゃないのか。
話せるドラクエ
ドラクエでは人に話しかけることができる。しかしそれは、白い枠に囲まれた中の話であって実際に自分が声をだして話しかけているわけではない。
話す内容も何回か変わるくらい。それ以上もそれ以下もない。
もし白い文字を追いかけるだけの会話ではなく、本当に声をだして話しかけることができたら。話しかける言葉の数だけ、相手の反応が変わり、話す内容も変わったら。
話をすることがずっと楽しくなるはず。
自分が声をだして、ゲームのキャラクターに話しかける。ゲーム機に付けられたマイクが声を認識し、話しかけられたキャラクターのプログラムが意味を理解する。その意味に返信するため、言葉が作られる。
その言葉はキャラクターが生んだ言葉。そのキャラクターだけの言葉。
キャラクターのゲームでの役割、生き方を反映した言葉。
キャラクターは自分の置かれている状況をよく理解して、まるで本物のような会話をすることができる。
朝にはおはようといい、夜にはこんばんわという。酒場のおやじなら酒場に来る客のこと、客が話すことを知っている。
主人公つまりプレイヤーが「最近どうだい?」と話しかけると、もちろん、酒場のおやじは高い確率で酒場のことや酒場の客のことを話すだろう。
白い文字を追いかけるドラクエではそこで会話が終わった。しかし話せるドラクエになれば、いろんな会話をすることができる。
酒場のおやじに魔王のことについて聞いたり、王様や、町のことについて聞いたりできる。町に住んでいるのだから、武器屋や道具屋の場所を聞くこともできる、宝箱や、井戸の場所を教えてくれるかもしれない。
試しに「仲間にならないか」と誘ってみると、酒場のおやじは「いいや結構」という。理由を聞いてみると「おれはただの酒場のおやじだ」とか「おれは戦えない」とか「そんな危険な冒険、あんたたちだけでやれよ」という返事が返ってくるかもしれない。
時間が経って、もう一度、酒場のおやじを仲間に誘えば「前にもいっただろ、おれは仲間にはならない」と答える。
プレイヤーとの会話はプログラムに記録されていて、過去のことを反映する。
失礼なことをいえば、それなりの態度で接してくるだろう。しかし、プレイヤーを困らせて冒険の進行を止めるような無駄な会話はしない。あくまで、ドラゴンクエストの会話なのだ。
そのひとつひとつの話に、意味があり、世界がある。
仲間に声をだして、コミュニケーションすることで、絆は一層深まるだろう。頼れる仲間と話をすることが楽しみで仕方がなくなるはず。
冒険の感想を聞いたり、さっき泊まった宿屋の居心地を聞いたり、プレイヤーのことをどう思っているか聞いたり、なぜそう思っているのかを聞いたり。
仲間の過去を聞くこともできる。でも、もしその過去がのちの冒険で明らかになるのなら、いま聞いても、ぜんぶは話してくれないだろう。すべてが自由な会話ではない、あくまでストーリーの大筋を邪魔しない会話なのだ。
仲間に「ドラゴンクエストって面白いね」といっても「なにそれ?」というだろう。ゲームの外の世界の言葉を理解すると、世界観が壊れるので、理解できない言葉だと理解する。
「HPとMPって知ってる?」とか「同じ顔の村人がいるのはどうして?」などゲームシステムに関わるもの、細かい設定に対する質問は一切受けつけない。話せるドラクエは、ドラクエの世界の中でのみ存在するのだ。
仲間と直接話をして便利になるのはモンスターとの戦闘だろう。たたかう、じゅもんをボタンで押さなくても、声で指示すればいい。これこそリアルな「めいれいさせろ」だ。
「○○に回復呪文を」「スライムに攻撃呪文を」「ここは逃げよう」「○○テンションを上げて」など、声をだすことで臨場感ある戦闘になること間違いなし。
「○○さっきのこうげきはよかったぞ」「○○大丈夫か?」など仲間とリアルタイムに会話をすることで、モンスターとの激しい戦闘も乗り越えられるだろう。
話せるドラクエによって、このゲームはさらに素晴らしいものになる。過去のあのドラクエの、あの人に、声で話しかけられる、あの人にあんなことをいうとどういう返事が返ってくるのか。
楽しみは1粒も2粒も増えて、時間が経つのを忘れていつまでも話をしてしまう。
そんな、話せるドラクエ。あったらいいな。