#2 まっ茶とレモンティー
乗ったらすぐに気球っぽいものは動きだした。少しずつ自分の部屋と家が遠ざかっている。ぼくは心の中でそれらに手を振った。
「まっ茶飲む?」
うしろを向くと、二人の男は丸い机を囲んで座っていた。リュックの男がこちらにコップを差しだす。のどは乾いていなかったけど、飲めないわけではなかったのでぼくはコップを受け取ろうとした。すると、コートの男が持っていたコップをぐっと突きだした。
「それともレモンティー飲む?」
ぼくは前にある二つのコップを交互に見た。
「じゃあ、両方もらいます」
「そうか、ならこうしよう」
リュックの男は新しいコップをぼくに持たせた。
「それ!」
そうした合図とともに、二人の男は手にしていたコップの中身をぼくのコップへ流し込んだ。
「まっ茶レモンティー、略して“マッティ”だ」
「そりゃいいな」
二人の男はアハハと笑った。ぼくはコップを鼻に近づけた。まっ茶とレモンティーのにおいがする。
「そうだ、君の名前もマッティということにしよう」
「そりゃいいな」
「さあ、マッティ、マッティを飲むんだ」
ぼくは飲もうとしたが、マッティは口の中に入る前にぼくの顔にかかった。自分の体がどしん! という振動に包まれたからだ。
「どうやら着いたようだ」
リュックの男はそう言って気球っぽいものから降りた。コートの男もそれにつづく。
自分のくちびるをなめてみると、まっ茶とレモンティーの味、略してマッティの味がした。ぼくはなるほどと思いながら気球っぽいものからでた。
足の裏にコンクリートの感触が伝わり、ひやっとする。リュックの男は黙ってぼくの足元に長ぐつを置いてくれた。ぼくの足のサイズには大きい気がしたし、はいてみるとやっぱり大きかった。
歩いていく二人の男のあとを、長ぐつがすぽっと抜けないようにしながらついていく。
そこは見覚えのある場所で、すぐにぼくの家の近くの洞くつだということがわかった。