#6 夜明け
ぼくはうなずいた。たしかにあれはぼくの影だ。一度、下に降りてうしろから近づいて捕まえたほうがいいな。
そう考えて、ぼくが動いたのとぼくの影が動いたのはほぼ同時だった。ぼくの影はムサヤ族の一人の体にピタッと張り付いた。たちまちムサヤ族の体はぼくの影に吸収されて影は一回り大きくなった。ほかのムサヤ族は気が付いていないのかまだお祈りをしている。
ぼくの影はそんなムサヤ族たちを次々と吸収していき、すべてのムサヤ族を吸収し終えると、体は絵本で見た巨人のようにふくれあがっていた。ぼくの影は風船のような丸い頭をぼくと二人の男のほうに向けた。どうしよう、こんなに影が大きくなってしまったらもう影アミで捕まえることはできないのではないか。
「ぼくの影を小さくする方法はないの?」
「そうだな、考えれば方法は思いつくけど……その前に、逃げろ!」
え? どうして逃げるの? とぼくは聞こうとしたけど、すぐにどうして逃げるのかがわかった。ぼくの影が両手を高く上げて、それをぼくたちの上に振り下ろそうとしていたからだ。
ぼくは体を思いっきり横へ倒してその攻撃をかわしたけど、ぼくの影の両手は地面を破壊するくらいの力があったので、足場が崩れたぼくはそのまま下に落ちていった。
バランスよく両足で着地することができたのでけがはなかったが、持っていた影アミが着地の衝撃でぽきっと折れてしまった。二人の男がそばへ駆け寄ってくる。
「大丈夫か、マッティ?」
「うん、でも、影アミが壊れちゃった」
「いや、アミは壊れていないから大丈夫だ、その前にあいつを小さくしないとな」
「方法を思いついたの?」
「ああ、見てな!」
リュックの男は腕に付けていた装置を操作した。ピピッと電子音が鳴る。
「よし、これでいい、あとは少し待てば……」といっている途中でぼくの影がこちらにずんずん迫ってきた。
コートの男がとっさに胸元から大きな拳銃を取りだして、発砲した。弾はぼくの影の肩に命中してうしろへ尻もちをついた。なんて威力の高い銃なんだ。
「へ、ちょろいもんよ」コートの男はまたコートの裏に銃を戻した。
「よし、準備できたぞ、みんな上を見てみろ」
リュックの男の指示通りに上を見ると、空が明るくなっていて、そこに気球っぽいものがあった。あれはぼくたちが乗ってきたものだ。装置を使って呼びだしたんだ。
その気球っぽいものからはまぶしい光が放たれていて、それはぼくの影に一直線に向かって行った。ぼくの影は光を浴びると苦しそうに体を動かして、黒いもやもやが頭から煙のように上がっていき体はだんだんと小さくなっていった。
「朝日を使ったんだ。太陽の光をあの気球に付いている鏡を使って反射させたんだ。ほら、あとはマッティに任せた!」
リュックの男に背中を押されて、ぼくは元の大きさになった自分の影に向かって走っていき、手に持った影アミを上からかぶせた。
「よくやった!」
二人の男の声が聞こえて、ぼくの目の前は急に暗くなった。そうだ、いまぼくがいる場所はまだ朝日の光が当たっていたんだ。もしかして影を取り戻す前にぼくが朝日を浴びたから消えちゃったのか。そんな……。
ぼくの意識は少しずつ遠くなっていった。とても暗いトンネルの中に入ったみたいだった。でも、そのトンネルには出口があった。出口が見えた。ぼくは必死になってその白い光がこぼれる出口に向かって足を前にだした。
うーん。頭が重い。目をぱちぱちさせると、自分の部屋のベッドにいることがわかった。やっぱりいままでの出来事は全部夢だったんだ。
ぼくはベッドからでて、日の光に照らされた窓に近づいた。窓のそばには小さな箱が置いてあった。箱の下に紙がはさまっている。
紙には“また一緒にアドベンチャーしよう!”と書かれていた。
ぼくはドキドキしながら箱を開けた。その中には、魚の形をした骨が入っていた。まさか、夢ではなかった? 信じられないことだけど、ぼくはなぜかちょっぴりうれしかった。またあの二人の男に会えるかもしれない。
そのとき、ぼくを呼ぶ声がした。母さんだ。
「こまち! 朝ごはんよ!」
「はーい!」
ぼくは箱の中に紙を入れてふたを閉め。早歩きで部屋をでて行った。
–終わり–