#4 メディシング・ラブのバー
メディシング・ラブのバー
メディシング・ラブのバーはきょうもにぎやかだった。ご機嫌なビビタスは高らかに歌い、トランペットは火を噴き、ドラムはこもったマシンガンを打ち鳴らす。
律儀にドアのベルを震わせたのは、くすんだ茶色のコートの男だった。表面がすり減った革のブーツには、ここ数日の雨の副産物がべっとり付いていた。
男は不愛想に伸ばした髪から目を覗かせ「受刑者の太陽」と、マスターにいった。
マスターは両耳にイヤホンを装着しながらも、客の注文を聞き逃すことはない。だからこそ、バーの信頼と維持に貢献していた。
マスターは4歳児の手足をボトルに詰めて、舌を器用に動かしながら歌を歌った。
「立教の亡霊よ、ただちに時刻を確かめたまえ、お主の望む子どもは昨日、親族が引きとった、周りに回る、鋭敏な矛先、りるりるな、ボートスミス、これには砦の女王やルクセンブルク国王は笑わない、ああ、蘇るイタチごっこ」
男はマスターから「受刑者の太陽」を受け取り、無感情に口に運んだ。どことない異質な空気に、羽を休めたのはこの店に住む1匹のハエだけだった。このハエが昔、勇敢なる戦士だったことは、いまはもうだれも知らない。
ポール・スミス
「ポート・スミス? いや、ぼくはポール・スミスだ、役名はけげんなポール」
ポールは居心地の悪さを露呈しながらも、この目の前の、野蛮なウルフに説明をした。彼にとっては口にフジツボができるくらい、うんざりの連続だった。
「へえ、へえ、それは失礼でしたな、旦那、さて、ここが例のバーです」
野蛮なウルフは灰色の後ろ髪を見せながら、バーのドアを開けた。
あたり一面、赤い群像だった。あのイヤホンのマスターも、ビビタスも見当たらない。100本の足を持つ猫に嗅がせても、きっとわからないだろう。
「生き残りはないようですぜ、みんなぽかんと口を開けたまま仏の足元です」
「盗賊か、狂気の亡霊か」
野蛮なウルフはぐふふと楽しそうに笑った。
「いやいや、下請けの友や、耳から存在を否定されたピアニストかもしれませんよ」
「お前の仲間の可能性もあるだろう? 野蛮なウルフの鼻かみ殺しは有名だからな」
「いやあ、旦那にいわれると照れますなあ」
ポールとウルフはカウンターを調べ、残った「受刑者の太陽」を飲みながらこれからのことを計画するのだった。
亡霊はついに、坂を上った。そこから右へ曲がって公園を抜ければ、あなたの玄関はすぐそこだ。
歯茎のしわ寄せ
ナッツはまるまる太った馬にロープで引きずられていた。砂ぼこりが口に入り、つばを飲むとじゃりじゃりした感触が楽しめた。これは彼なりの健康法だった。
「あの人は、どうしてあんなことをするのです?」エチケットブルース、元女王の娘ケットは望遠鏡でマカダミアンを強襲した。
「ああ、なんでも健康にいいらしい。ああやって、ロープで引きずられることによって、歯茎にしわができるんだとよ」
「ふーん、異国の風習ですね」ケットは大声で笑うのを我慢して、ナッツの行いを遠目で観察した。
「どうだい、ナッツ? いい健康かい?」
「ああ、へへ、体からマグマが噴きだしそうだ」ナッツは赤く腫れた顔で笑顔を作った。なるほど、とてもおいしそうな笑顔だ。
こうやって、砂地を毎日進めば、雨は降らず、そして、泡にもならなかった。3人は路頭に迷い、各々が目指す理想の旅に尻尾をかじられていた。
夜空の下で出会った行商人に宿を借りて、久しぶりのお風呂につかることができた。
ナッツは歯茎のしわを行商人に見せて、大変怒られたようだ。でも代わりに、星空のコンパスをもらい、しばらくは上機嫌だった。
次の太陽は14日後だというので、3人は落胆した。だが、歩くことをやめるわけにはいかない。渡されたパンフレットには再入場お断りと赤い文字で明記されている。
尋問に使う涙は溜めておかなくてはいけない。昼は朝に対して上品で、夜に対して大胆なのだ。