#3 サブスタンスの群れ
作品集まーねは、意味だらけの世の中に投じられた新しい原石。もしくは、何万光年も離れた、星に咲く花。
それはまだ、だれも手をつけていないし、役割を与えられていない。あなたがその一番最初の発見者となる。
サブスタンスの群
未熟な肩こりに悩まされていた砦の女王は、本日の午後4時におつかいを頼んだ。葉巻とよくゆでられたトランプカードを召使いに買いに行かせた。
ニワトリが鳴くよりも早く、砦の城門は開けられる。どっと押し寄せるサブスタンスの群は、だれが女王の服に黒アリを付着させられるかで頭がいっぱいだ。
けげんなポールがいたころは、この事態を早急に解決した。矢の先に自由の女神を塗り、おまじないを唱えた。
大地の申し子、糸くずの母、約束されたパパラッチ、祝辞を述べるのは痩せた子羊。
大きな声で3回唱えたときに、100本の足を持つ猫がにゃーと景気よく鳴き、召使い40人での水かけ合戦がはじまった。不誠実なレモンを握ったものには、勲章として、家の玄関に入りきらないほどの自由の女神をプレゼントされる。
これは、この砦の、悪しき習慣といえる。女王の娘はそう考えていた。
夏と朝日
経験でいえば、肉厚のハンバーグをほおばったときに似ている。無数のケーブルで足を縛れば、血は固まり、泣きべそをかくに違いない。軍隊なんて昨日の友だちだ。シャボン玉を空に打ち上げれば、サンショウウオの世界までまっしぐら。
ジャンク・ビューは桃色のスカーフを首に巻き、難しい目をしてじっとしていた。家来のひとりが乱暴に声をかけてくる。
「隊長、この期に及んでピクルスとは、ニキビが増えますぞ!」
「心配は無用だ。占い師にとびっきりの金を払ってある。いまごろ、おれの妻はベッドで寝がえりをうって、たたき起こされるのを心待ちにしているだろう」
ジャンク・ビューは広間にキャンディの包み紙をばらまいた。七色に輝く、それは美しい包み紙だった。
「これを明日までに、きれいにしておけ。お前のパンクフットに住む母上を苦しませたくないならな」
家来は銅の槍を置き、床をきれいにした。夏ははじまったばかり。開けられた外の風から、巨大な赤陽がエールを送っていた。
エチケットブルース
「あんたのいうことが嘘なら、その端正なまつ毛を一本残らず引き抜いて、それでベルギー人形をこしらえてやるぜ」
ナッツは故郷の水を飲むように、女王の娘を脅した。娘はくちびるを噛み、両手をもじもじさせた。
マカダミアンは寝室の窓から下の様子をうかがった。レタスみたいな服を着た手下が3人、どれも女王好みの体格をしている。きっと改造されたのだろう。
「娘よ、名前はなんという?」
「はい、エチケットブルースといいます」
「長いな、では、ケットと呼ぶことにする。ケット、砦にある抜け道を教えてくれ。あなたのドレスが泥だらけになっても仕方がないような道をね」
神妙な顔で要求を受けたケットは、花瓶に刺さった短剣を持ち、器用に後ずさりした。
ケットには幼少期より鍛えられた、自慢の指関節があった。どこまでも曲がり、折るとパキキッという音が鳴る。ケットは毎晩、その音を聞きながら、ベッドの中で女王の眠り歌に対抗していたのだ。
マカダミアンとナッツはその見事な指関節に助けられながら、砦を脱出することができた。
「もう、ここまでくれば大丈夫だろう」
「追ってこないかな?」ナッツは息を切らしながらそういった。
「ケットの偽の指関節と、みそおでんがおとりになってくれるよ」
マカダミアンはにんまりと笑いながらいった。
「みそおでんなんかよく作れたな」
「ええ、私がお手伝いをしたのです。腐っても女王の娘ですから、それくらいはたしなんでおります」
「いいか、ケット。これからはもう女王の娘ではない。自由なんだ。少しの間な。エチケットブルース、ケット、ようこそ、またとない野原へ」
マカダミアンとナッツは手拍子でケットを褒め、夕日が沈むレクイエムとした。